二浴現像法テストレポート
小山貴和夫
1、始めに
本ホームページで「二浴現像法について」と題して宮岡貞英氏に報告していただきました。この方法を普及させたいと思い実験した結果をお届けいたします。
宮岡氏が報告されたものは、数ある2浴現像法の中の『シュテックラー氏二浴現像法』と呼ばれるもので、森 厚樹氏(日本写真家協会会員、故人)から勧められたそうです。お話をお聞きすると当時は現像法の名前を知らなかったようです。私が資料として宮岡氏に提供いたしましたアサヒカメラ誌に掲載された中川一夫氏の記事(1968年4月号)は、学生時代に読んで面白そうな方法だと思って切り抜いておいたものです。それを30数年も経た今日になって初めてテストしてみました。
2、二浴現像法とは何か。
現像→停止→定着→水洗→乾燥の順で行うのが一般的な処理方法ですが、あえて言えば1浴現像法となります。
これに対して現像処理を第1現像→第2現像と2段階に分けて処理する方法を二浴現像法といいます。以降の作業は、停止→定着→水洗→乾燥と通常の処理を行います。二浴現像法は、フィルム現像とプリント現像の両方にそれぞれの技法として存在しています。
1)フィルムの二浴現像法
『最新写真処方便覧』(笹井明著・写真工業別冊)によれば、映画のネガ用現像液としてコダックSD-4、コダックSD-5、コダックDK-20が紹介されています。さらに小型スチル・ネガ用としてライカ用2浴法処理現像液があります。また特殊なものとしてメトール→水酸化ナトリウム二浴現像液があります。
『アンセル・アダムスの写真術』には、軟調効果を得るためのマイナス現像用としてD-23→コダルク(メタ硼酸ナトリウム)1パーセント溶液の二浴現像法が紹介されています。また古い技法として、D-76で現像した後に水に浸してからまた現像液に戻すという軟調仕上がりを期待する二浴現像法も伝えられています。ただしこの方法は確たるデーターを得にくいので、勘と経験が必要な技であると思います。『最新写真処方便覧』には載っていませんが、ライカ用二浴法処理現像液に似た処方で『シュテックラー氏二浴現像法』が、いま話題を集めています。
現像液の中には、現像主薬・保恒材・促進剤・カブリ防止剤などと呼ばれる薬品が入っていて、それぞれの作用によって現像が行われます。感光乳剤層に染みこんだ現像主薬は、感光しているハロゲン化銀を還元し自らは酸化してしまいます。酸化して能力を失った現像主薬を、新鮮な現像主薬と入れ替えるために撹拌が行われるのです。繰り返し攪拌されることにより現像作用が継続され黒化が進行します。停止液(酸性溶液)で中和し現像の進行を止めますが、停止処理を行わない限り現像が進行していると考えられます。カブリ防止剤を使っているとはいえネガはやがてカブリが生じます。
※現像主薬 潜像核を持つハロゲン化銀(潜像という)を還元し金属銀を生じさせる働きを持ちます。
保恒剤(酸化防止剤) 現像液をアルカリ性に保ちます。
促進剤(現像促進剤) 現像主薬を活発化するためのpHを維持するために使われます。
カブリ防止剤(現像抑制剤) カブリを防ぐための薬剤。
※カブリとは、未露光部分のハロゲン化銀が現像(還元)されて金属銀となることで、現像液に入れた瞬間から生じているとされています。英語ではfog。カブリの程度は、濃度計レベルから肉眼で確認できるレベルまでさまざまです。カブリが肉眼でも明らかになると、「ヌケの悪いネガ」と呼ばれてプリントの際の妨げとなります。
2)印画紙の二浴現像法
セレクトール・ソフト(コダックの既製薬)→各メーカーの印画紙現像液をの順でおこなう二浴現像法とアンスコA-120軟調現像液(処方)→各メーカーの印画紙現像液の順でおこなう二浴現像法とがあります。また印画紙現像液と水とを往復させる二浴現像法もあります。この方法は、安全光で調子を判断しなければならないので勘と経験が必要となります。いずれも多階調印画紙の登場する以前の技法といえるでしょう。
※「Dr.Beersのコントラスト可変現像液」について、一部に「二浴現像液である」という記述があります。この方法は、A液とB液および水を混合して現像するもので、混合比率によりプリントのコントラストを調節できるというものです。ここで話題にしている二浴現像法とは異なります。
3)フィルム用二浴現像法のプロセス
中川一夫氏は、その著書「現像引伸のうまくなる本」(朝日ソノラマ・現代カメラ新書・No8、1976年刊)で、『二浴現像法のプロセス』を次のように書いておられます。少し長くなりますが引用いたします。
「二浴式現像液はその名前の示すようにA液とB液の二種類の液にわかれていてまずフィルムを装填したタンクにA液を注入し、3分半〜4分後にA液を排出し続いてB液を注入する。B液も3分半〜4分後に排出すれば、A・B液の合計で7〜8分で現像が完了する。以後は普通のように停止、定着を行えば良い。二浴式現像法には、いままで普通の現像液に対する常識ではちょっと信じられないくらいの良い特徴がある。順を追って解説すると、・高感光度から低感光度にいたる各種のフィルムの現像時間が同一で良いこと。・露出の過不足(4倍〜1/2)は現像により調整されほとんど同一に仕上がる。
これらの理由は、A液には処方を見ればわかるように現像主薬が含まれているが現像促進剤のアルカリが含まれていないので現像力はほとんどなく、フィルムの膜面に現像主薬を含ませるのが目的であり、現像促進剤の溶液でなりたっているB液は、フィルムの膜面にしみこんだ現像主薬を促進して現像を行う。フィルムが多く感光している部分はどんどん現像が行われるが、膜面に含まれた現像主薬の量には限界があるので、一定の濃度まで進むと、主薬が疲労して現像が停止する。
一方フィルムの少ししか感光していない部分は、現像の進行はおそいけれども主薬が疲労してないので、多く感光した部分より長い時間十分に現像される。しかし膜面に含まれたA液は時間の経過と共に、B液中に拡散して行き、数分後にはほとんど拡散してしまうから、現像は自動的に停止する。」
二浴現像法のプロセスは「現像液Aで感光乳剤に現像主薬を染み込ませ、現像液Bで促進剤が現像主薬に反応して現像を進行させる。」という二段構えの仕組みとなっています。
非常に分かり易い説明です。大方はその様なプロセスで進行しているのでしょうが、はたして現像液Aには現像能力が殆どないといえるのでしょうか。疑問が残ります。というのは現像液Aの組成が、コッダクのD-23(処方)の組成によく似ているからです。D-23(処方)にはメトールが7.5グラム使われ、一方の現像液Aにはメトールが5グラム使われています。その差は2.5グラムです。それでほとんど現像されないのでしょうか。確かめねばなりません。なぜならば僅かでも現像が進行しているならば、攪拌をしなければならないからです。攪拌は、ハロゲン化銀を還元し自らは酸化してしまった現像主薬を新鮮な現像主薬と交換することですから。感光乳剤中に現像主薬を染み込ませるだけならば攪拌の必要性がないのではないかと思われます。
3、テストの目的
「現像引伸のうまくなる本」には、2浴現像法は次のような利点があると書かれています。
1)高感度フィルムから低感度フィルムまで、多くの銘柄のフィルムが同じ現像時間で処理できる。
2)現像によりラチチュードが調整される。(軟調現像)
3)現像主薬と促進剤が混合されていないので処理液の消耗が少なく、液の保存性がきわめて良好になる。
4)高解像力で粒状性が良くなる。
5)現像温度が、19度から29度まで何度でも良い。(24度が最適か)
以上の利点される各項目を確認することが、このテストレポートの目的です。
4、『シュテックラー氏二浴現像法』の改良の経過
アサヒカメラ誌で中川一夫氏が書いている「ライカフォトグラフィ誌に理想の現像液と紹介された新2浴現像液をテストする」という記事によれば、次のような経過がありました。(1968年4月号)
1)オリジナル処方
1938年、ドイツ人シュテックラー氏(Heinrich
Stockler 、当時ライカフォトグラフィ誌編集長)が発表した処方が「シュテックラー氏二浴現像法」です。
第一現像液(A)
温水(45℃前後)・・・・・750cc
メトール・・・・・・・・・・ 5g
無水亜硫酸ナトリウム・・・・100g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
第二現像液(B)
温水(45℃前後)・・・・・750cc
ほう砂・・・・・・・・・・・ 10g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
2)改良処方
1967年、アメリカ人ダルゼル氏(L.B.Dalzell)がライカフォトグラフィ誌に「シュテックラー氏二浴現像法」の改良処方を発表しています。この処方が、現在一般的に「シュテックラー氏二浴現像法」として知られているものですが、正確には「シュテックラー氏二浴現像法・ダルゼル氏改良処方」と言ったほうが良いでしょう。
第一現像液(A)
温水(45℃前後)・・・・・750cc
メトール・・・・・・・・・・ 5g
無水亜硫酸ナトリウム・・・・ 75g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
第二現像液(B)
温水(45℃前後)・・・・・750cc
ほう砂・・・・・・・・・・・ 10g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
3)中川改良処方
中川一夫氏は、その著書「現像引伸のうまくなる本」(現代カメラ新書No8 朝日ソノラマ社・1976年刊)で、つぎのような氏自身が改良した処方を紹介されていています。
第一現像液(A)
温水(45℃前後)・・・・・750cc
メトール・・・・・・・・・・ 5g
無水亜硫酸ナトリウム・・・・ 50g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
第二現像液(B)
温水(45℃前後)・・・・・750cc
ほう砂・・・・・・・・・・・ 10g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
※同書では、第一現像液のメトールを10gに増量した増感用の処方も紹介されています。
4)改良処方で、なぜ無水亜硫酸ナトリウムが減ぜられたか。
1938年に発表されたオリジナル処方から1967年のダルゼル氏の処方、さらに1976年発表の中川一夫氏の処方へと改良が繰り返されてきましたが、唯一変化したのは無水亜硫酸ナトリウムの量でした。ではなぜ無水亜硫酸ナトリウムが減ぜられたのでしょうか。
亜硫酸ナトリウムには二つの役割があります。一つは保恒剤としての役割です。もう一つは「銀粒子を溶解して見かけ上の微粒子化」という役割です。多くの現像液で亜硫酸ナトリウムが1リットルあたり100グラムほど使われていることの理由です。写真用語事典(株式会社日本カメラ社)には次のように書かれています。『亜硫酸ナトリウム(sodium
sulphite) 亜硫酸ソーダともいう。保恒剤として現像液の主薬が酸化するのを防止するために使われているほか、多量に加えるとハロゲン化銀溶剤としての性質がでるので、微粒子現像液には100g前後と多量に使用されている。・・略・・』(509ページ下段)
ダルゼル氏および中川氏による処方の改良は、フィルムの性能向上(微粒子化)により無水亜硫酸ナトリウムのハロゲン化銀溶剤としての性質の必要性をさほど重要とはしていなかったのだと考えられます。
5)ラフな改良処方『100>無水亜硫酸ナトリウム>50g』
無水亜硫酸ナトリウムの役割を保恒剤としてのみに限定するならば、50g以上100g未満なら何グラムでも良いことになり、スプーンで何杯というようなラフな計量でも可能ということになります。
第一現像液
温水(45℃前後)・・・・・750cc
メトール・・・・・・・・・・ 5g
無水亜硫酸ナトリウム・・・・50g〜100g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
第二現像液
温水(45℃前後)・・・・・750cc
ほう砂・・・・・・・・・・・ 10g
水を加えて・・・・・・・・1000cc
※無水亜硫酸ナトリウムの計量を、100円ショップで購入したダイエットカップ(擦り切り一杯が40g、上皿天秤で確認)で一杯半としています。だから「ラフな改良処方」となるのです。
6)参考となる処方
コダックDK-20(微粒子現像用)
第1液(A液)
温水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・750cc
メトール・・・・・・・・・・・・・・・・ 5g
無水亜硫酸ナトリウム・・・・100g
チオシアン酸ナトリウム・・ 1g
臭化カリウム・・・・・・・・・・・・0.5g
水を加えて・・・・・・・・・・・・・1000cc
第2液(B液
温水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・750cc
コダルク・・・・・・・・・・・・・・・・ 2g
水を加えて・・・・・・・・・・・・・1000cc
ライカ用二浴現像液
第1液(A液)
温水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・750cc
メトール・・・・・・・・・・・・・・・・ 5g
無水亜硫酸ナトリウム・・・・100g
水を加えて・・・・・・・・・・・・・1000cc
第2液(B液
温水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・750cc
無水亜硫酸ナトリウム・・・・ 6g
無水炭酸ナトリウム・・・・・・ 15g
水を加えて・・・・・・・・・・・・・1000cc
コダックD-23
温水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・750cc
メトール・・・・・・・・・・・・・・・・7.5g
無水亜硫酸ナトリウム・・・・100g
水を加えて・・・・・・・・・・・・・1000cc
7)薬品について
メトール:現像主薬。化学名には3通りあって、モノメチルパラアミノフェノールサルファート、硫酸
N-メチル・P-アミノフェノール、N-メチル・P-アミノフェノール硫酸塩。どれかが表示されています。
メトールは、アグファの商品名。モノール(富士フィルム)、エロン(コダック)、メトールミン(中外写真薬品)、メトールサン(エヌ・エヌ・シー)などの商品名で発売しています。
無水亜硫酸ナトリウム:。Na SO。
無水炭酸ナトリウム:Na CO
ホウ砂:化学名は四ホウ酸ナトリウム、Na B O ・10H O (ホウ酸と間違えないように)
チオシアン酸ナトリウム:NaSCN
臭化カリウム:KBr、臭化カリ、ブロムカリなどとも呼ばれる。現像液のカブリ防止剤。
コダルク:メタホウ酸ナトリウム。NaBo ・2H O。コダルクはコダックの商品名。ナボックス(富士フイルム)、コニグレン(コニカミノルタ)。現像液のアルカリ剤、定着液の白濁抑制剤。
テストの実際
1、テスト項目
1)現像温度の違いによるネガのコントラスト(ジーバー)確認。
2)各種のフィルムの現像時間が一定で良いのか。
3)処理能力(一定料の現像液に対する処理本数」と経時変化
2、使用機材
1)使用カメラ
35ミリカメラ・・・ニコンF3(レンズ:AF24ミリ、50ミリ、105ミリマイクロ)およびライカMP、ズミクロン50ミリF2.0
中判カメラ・・・・・ハッセルブラット500CM
(プラナー120ミリ)
大判カメラ・・・・・リンホフ・テヒニカ(フジノン・150ミリ)
2)計量について
上皿天秤や電子秤を使って計量は正確にする。父の形見の品で「昭和9年に購入」と箱書きされている上皿天秤を使用しました。 「上皿天秤秤か電子秤が無いと処方による処理剤作りができないのか。」というご意見をお聞きします。これに対しては、『環境に優しい暗室処理』を書くに当たってご指導をいただきました大阪芸大写真科の里博文先生は、計量スプーンの使用を進められていました。ところがこのホームページを見ていただいている仙台在住の平井敏夫様からは、メールで「郵便物用の秤(ポストスケール)を使うと良い。」とお教えいただきました。これで計量したものを上皿天秤秤で確認したところかなりの精度がでましたのでお勧めできると判断しています。薬品を入れる袋は、フィルムパック(ホワイト写真用品製)の120サイズ用を使いました。この袋の自重は0.5gです。その分はマイナスすることが必要となります。(4×5サイズ用の自重は0.8g) 無水亜硫酸ナトリウムは、百円ショップで買ったダイエットカップ(商品)を使いましいた。擦り切り一杯で約40gでしたので一杯半(約60g)という計量で良しとしています。 なお一度に5リットル作ると計量が楽になります。(株)エヌ・エヌ・シーでは、メトール(自社商品名メトールサン)を25グラム入りで販売しています。第一現像液は1リットルにメトール5グラムですから5リットルならば25グラム。ビンの全量を溶解すれば良いことになります。また無水亜硫酸ナトリウムは最小単位500グラム入りで発売されています。全量を溶解すればオリジナル処方、四分の三でダルゼル改良処方、半分で中川改良処方となります。従って目分量でも良いでしょう。ホウ砂だけはきちんと計量すれば良いことになります。1リットルなど少量を作る時にはやはり秤が必要になります。ポストスケールとフィルムパックの組み合わせを試されると良いでしょう。 |
|
3)現像タンク
マスコタンク・プロの1351と1201を主に使い、1353、1202を大量処理の時に使いました。タンクは各2個用意して第一現像(A)・第二現像(B)と使い分けました。(1353と1202は、タンクは共通で中軸とリールを入れ替えただけの共用です。)
私は、これまで現像時間を正確にするために「リール移動方式」と名付けられている全暗黒でリールを取り出して停止液の入った器に移動させる方法を採っていました。この現像方法は主に東京綜合写真専門学校で学んだ者たちが行っている方法です。英国のNOVA社では、この方法を「THE
TRADITIONAL IMMERSION SYSTEM 」といい「Dip
& Dunk Film Processor」という現像システムを販売しています。テストでは正確な現像時間を得るためにこの方法で現像いたしました。ただし「シュテックラー氏二浴現像法」は、現像時間も多少ラフで良いので一般的行われている「液入れ替え方式」で充分と思われます。
4)現像管理について
時間管理は、米国製のGRA LABタイマーを使用。
液温管理は、20℃時に19.98℃という誤差0.02度の二重管標準温度計(株式会社久松計量器製作所)を使用。
5)透過濃度計
ネガの濃度を計測するための透過濃度計は、Ihac-T5(伊原電子工業株式会社)を使用。
6)テスト撮影の方法について
・カメラ・スルー・センシトメトリーの検証するために、グレースケール(コダックの旧製品)を撮影しました。撮影は、500ワットの写真電球(ブルーランプ)を使い、複写ライティングで標準反射板をTTL測光で露出を決めました。カメラはニコンF3、レンズはマクロ・ニコール105ミリF2.8を使用。
・反射光式露出計で得られる中庸濃度の変化を比較するため、半透明の乳白色板(オパール・アクリル板)をレンズ直前にセットし、TTL測光で得られた数値で撮影しました。
・実写テストとしては、戸外の風景をニコンF3に24ミリと50ミリレンズおよびライカMP、ズミクロン50ミリF2.0で撮影しました。
※「写真科学の基礎」を学ばれておられない方は、実写テストの考察の2)をお読みください。なお機会あれば、テストの結果であるネガやプリントを見ていただきたいと存じます。
テスト項目1:液温による違いによるネガのコントラスト(ジーバー)の変化
1)使用フィルム
ネオパンプレスト400(公称感度ISO400で使用)
2)現像データー
現像時間は、第一現像(A)4分30秒→第二現像(B)4分30秒
現像温度は、・18℃ ・20℃ ・22℃ ・24℃ ・26℃ ・28℃
液の補充は、持ち出しによる減量分のみ。
3)濃度データーおよび特性曲
※反射濃度はグレイスケールの各コマの反射率。1.90が黒で0.00が白、間がグレーとなります。
※透過濃度はネガの濃さを示す。
18℃(濃度測定は実施せず)
反射濃度 | 1.90 | 1.80 | 1.30 | 1.00 | 0.70 | 0.50 | 0.30 | 0.20 | 0.10 | 0.00 | ベース | 黒身 |
透過濃度 |
濃度域:
最小有効濃度:
角度:
ジーバー:
20℃
反射濃度 | 1.90 | 1.80 | 1.30 | 1.00 | 0.70 | 0.50 | 0.30 | 0.20 | 0.10 | 0.00 | ベース | 黒身 |
透過濃度 | 0.30 | 0.34 | 0.42 | 0.60 | 0.61 | 0.72 | 0.76 | 0.80 | 0.82 | 0.90 | 0.24 |
濃度域:0.60
最小有効濃度:0.34
角度:16度
ジーバー:0.30
22℃
反射濃度 | 1.90 | 1.80 | 1.30 | 1.00 | 0.70 | 0.50 | 0.30 | 0.20 | 0.10 | 0.00 | ベース | 黒身 |
透過濃度 | 0.33 | 0.41 | 0.48 | 0.60 | 0.68 | 0.77 | 0.82 | 0.90 | 0.89 | 0.90 | 0.25 |
濃度域:0.57
最小有効濃度:0.35
角度:19度
ジーバー:0.34
24℃
反射濃度 | 1.90 | 1.80 | 1.30 | 1.00 | 0.70 | 0.50 | 0.30 | 0.20 | 0.10 | 0.00 | ベース | 黒身 |
透過濃度 | 0.34 | 0.39 | 0.48 | 0.60 | 0.68 | 0.77 | 0.85 | 0.85 | 0.94 | 1.00 | 0.25 |
濃度域:0.66
最小有効濃度:0.36
角度:19度
ジーバー:0.34
26℃
反射濃度 | 1.90 | 1.80 | 1.30 | 1.00 | 0.70 | 0.50 | 0.30 | 0.20 | 0.10 | 0.00 | ベース | 黒身 |
透過濃度 | 0.39 | 0.49 | 0.59 | 0.70 | 0.80 | 0.95 | 1.02 | 1.10 | 1.11 | 1.20 | 0.27 |
濃度域:0.81
有効最小濃度:0.37
角度:24度
ジーバー:0.45
28℃
反射濃度 | 1.90 | 1.80 | 1.30 | 1.00 | 0.70 | 0.50 | 0.30 | 0.20 | 0.10 | 0.00 | ベース | 黒身 |
透過濃度 | 0.40 | 0.49 | 0.68 | 0.80 | 0.94 | 1.03 | 1.14 | 1.20 | 1.22 | 1.30 | 0.27 |
濃度域:0.90
最小有効濃度:0.37
角度:26度
ジーバー:0.49
4)テスト結果
@全体的に軟調な仕上がりとなりました。ハイコントラストの被写体条件でも充分にカバーしています。通常の適正現像温度20℃でなく25℃ぐらいが最適でしょう。
センシトメトリーの結果 ネガ濃度をグラフ化しジーバー(平均階調度)を求めた。
18℃・・・
20℃・・・ジーバー0.3
22℃・・・ジーバー0.34
24℃・・・ジーバー0.32
26℃・・・ジーバー0.45
28℃・・・ジーバー0.49
ジーバーと印画紙の号数との関係(マスコタンクの開発者の伊藤詩歌先生のデーター)
0.55・・・・ (コダブロ2号)
0.50・・・2号(コダブロ3号)
0.45・・・3号(コダブロ4号)
0.40・・・4号(コダブロ5号)
上記の「ジーバーと印画紙の号数の関係」から考察すると、ジーバー0.45となる現像温度26℃が最適かと判断できます。実際の被写体は、グレースケールより大幅に輝度域(被写体の明暗差)が広いため良好なネガとなることでしょう。従って、特に夏場などの被写体コントラストが強い場合の撮影に適していると考えられます。
A夏の高温時の現像に最適
04年、この年の酷暑には悩まされました。そこで早朝(午前5時)、室温30度・水道の温度28度・貯蔵されていた現像液29度という環境で現像しました。液温の上限が28度でしたので、現像タンクを水道水に浸けて液温が28度になった時に現像しました。満足なネガができ、3号印画紙でストレートプリントが作れました。
B冬季の液温管理に好都合
室温18度の環境で現像してみました。現像リールを持った時にかなり冷たさを感じました。液温を27度で現像を開始、終了時に検温したところA液は24.5度、B液は25度となっていました。約2度も低下していました。しかし現像の結果、ネガの上がりは良好でした。D-76でこれほど低下すると問題が発生します。そのため保温に注意したものです。二浴現像法では、室温がよほど低くなければ現像が可能です。防寒具を着て暗室作業をすることはないでしょうから。